【事例インタビュー】介護施設向けレクリエーション「VR旅行」を精力的に提供中。VRで日常をより「豊か」に ~登嶋 健太氏~
現在「東京大学 先端科学技術研究センター」の学術支援専門職員として勤務をするかたわら、ハコスコの講師や、VRを利用したブレインヘルス事業「GoodBrainシニア」のプログラム開発者/チーフトレーナーとしての役割も担っている登嶋健太さん。外出が難しいお年寄りの方たちをメインターゲットとし、VRの技術で「疑似旅行」を楽しんでもらう「VR旅行」サービスの先駆者として、今も精力的にサービスを提供しておられます。この取り組みが評価され、2017年には総務省「異能vation」のジェネレーションアワード特別賞を受賞。
そんな登嶋さんに、VRやハコスコとの関わり、福祉分野におけるVRの将来性などを語っていただきました。
登嶋健太(としま けんた)氏
遠出や外出が難しい方にも、手軽に旅行を楽しんでもらいたい
――VRと関わるようになったきっかけを教えてください。
登嶋:僕が以前勤めていた高齢者向けの介護施設には、外出や歩行が困難な方がたくさんいらっしゃいました。そのような方に、その場にいながら手軽に旅行に行けるような体験を提供できないか、という思いがあり、「VR」なら叶えられるのではないか、と。それがきっかけで「VR旅行」の取り組みをスタートしました。
――「VR旅行」の取り組みは、お一人で始めたのですか?
登嶋:はい。取り組みを始めたのは2014年のことで、仕事の合間を縫って国内各地に足を運び、360度カメラで現地を撮影していました。当時の360度映像が撮影できる機材は今よりも高価だったため、VRコンテンツの制作会社に機材をお借りして撮影していましたね。
そのうち「VR旅行」に対する反響が高くなってきて、様々な人の「VR旅行」に対する意見を集めることができるようになりました。2014年末にはクラウドファンディングで資金を集め、2015年からは世界各地での撮影をスタートさせました。
その頃になると、「THETA」(シータ)などの360度カメラも比較的安価になってきていて、僕のような個人でも360度映像が簡単に撮影できるようになっていくんだなと思っていました。
――ハコスコとの出会いは?
登嶋:最初にハコスコを知ったのは2014年です。それまで使っていたVRゴーグルに比べて、段ボール製のVRゴーグルは軽くてコンパクトなので、施設で使ったり、持ち運ぶのにはピッタリだと思いました。
本格的なVRゴーグルを使ったほうが没入感は増しますが、多数の機材を用意しようと思うと大変で(笑)。ハコスコのゴーグルは作りはシンプルですが、ゴーグルとスマートフォンさえあればVR体験できるので、多くの人が手軽に扱えるのではないか、と感じましたね。
――介護施設でも手軽に導入できるということですね。
登嶋:はい。それに加えて、初訪問する介護施設の場合、アナログ世代のお年寄りに対して、僕がいきなり「ゴーグルをかけて映像をみてください」と頼むと不安感をもたれる場合もあります。
そういうときは、ハコスコをご自身でを組み立てていただいて、本体に絵を描いてもらったり、装飾をしてもらった後、「このハコスコを覗くと旅先の思い出や故郷の風景が見えますよ」とお伝えすると、心理的なハードルがぐっと下がり、喜んで体験していただけるんです。
――レクリエーション中、気を付けていることはありますか?
登嶋:高齢者に限りませんが、「VR酔いをする」という方も一定数いらっしゃいます。そういう方に対しては、VR酔いしやすい2眼タイプではなく、VR酔いをしにくい1眼タイプのハコスコを体験していただいています。
「高齢者×VR」から「福祉×VR」へ
――現在はどのような活動をされていますか?
登嶋:介護施設の利用者に対して「VR旅行」を体験していただく活動は、「VRレクリエーション」と名付け、今でも各所の施設で展開しています。
また2018年4月からは、「東京大学先端科学技術研究センター」の稲見・檜山研究室に勤務しています。研究室では「VRが高齢者の心身に与える影響」をテーマに、蓄積されつつあるデータを基にして集計・検証しています。
そのほか2018年秋からは、ハコスコが開催しているの講師を勤めています。僕が蓄積しているノウハウに基づいて、360度カメラの撮影方法や活用方法などを教えています。
――今後はどのような活動を考えられていますか?
登嶋:僕がこれまで取り組んできたのは「高齢者×VR」というフィールドです。しかし今後もそのフィールドだけに限定していたくはなく、「福祉×VR」へとフィールドを広げていきたいと考えています。「福祉」には人を「幸せにする」「豊かにする」という意味があると思います。そこでVRを1つのツールとして考えて、その使い方を提供させていただくことにより、様々な方へのヒントになったり、気づきになったりすればいいなと思っています。
また、2019年5月からはハコスコのブレインヘルス事業「GoodBrainシニア」のプログラム開発者/チーフトレーナーとしての活動もスタートしています。そこでは、これまでの数年間で蓄積してきたノウハウを活用して、プログラムやマニュアルの作成をさせていただいています。
――ありがとうございました。
登嶋健太(としま けんた)
1986年、神奈川県横浜市生まれ。
高校卒業後、専門学校を経て柔道整復師として接骨院に勤務。2012年には高齢者介護施設へと転職。2014年から介護施設に入所している高齢者向けの「VR旅行」サービスをスタートする。
2017年には総務省が主催している「異能vation」のジェネレーションアワードで特別賞を受賞。2018年4月からは「東京大学先端科学技術研究センター」の稲見・檜山研究室に在籍。学術支援専門職員としての勤務をスタートする。